▲写真左より法政大学教授・田中研之輔様、BEYOND CAFE代表の伊藤朗誠。
BEYOND CAFE STORY11回目の今回は、BEYOND CAFE代表・伊藤朗誠が、法政大学教授・田中研之輔先生に、これまでのキャリア教育とこれからのキャリア教育についてお伺いしました。
伊藤朗誠(以下、伊藤):最近だと大学は就活予備校ではないといった論争も増えてきてますが、そんな中で大学はどう変わるべきだと思われますか?
田中研之輔教授(以下、田中教授):「次世代を育てる」もう本当に、これが、これからの大学のキャッチコピーになると思います。変化の激しいグローバル社会で、自分を変化させながら、キャリアを築いていける人を大学教育を通してどれだけ増やしていけるかです。
大学の役割は知識を教えることももちろんそうだけど、「次世代を戦い抜いていける人材をいかに育成するか」、それができないのであれば、学生は大学に来る意味ないですから。専門を学ぶだけならMOOC(誰もが無料で受講できるオンライン講義)でいいわけですし。
でも、人が生きていく上で大切なのは、コミュニケーションですよね。何か問題を発見して解決していくのは、一人ではなくて、チームでやりますよね。
だからゼミ経験は、良い経験になると思います。私のゼミでは、2年生から4年生合同で、45人くらいで一緒に学んでいます。学びのコミュニティがそこにはあります。その中でどういう組織を作るのか。組織デザインは、あえてゼミの幹部に任せています。試行錯誤しながら、関係性を築く、集団を形成していく練習を重ねているのです。
伊藤:結局人だと僕は思うんですよね。僕たちも「BEYOND CAFEって何?」って言ったら、その答えの本質を表すのは、そこにいるキャリアアドバイザーだったり、他のクルーだったするわけで。そうやって考えると、大学は、田中教授のように社会を知った教授をまずは入れるべきだと思うし、今いる教授を変革させる必要があると思うのですが。大学では教授たちが高め合うということはあるんですか?
田中教授:これがおっしゃるように、大問題なんですよ。大学の教員って、専門職採用で、○○屋さんなんですよ。例えば私は社会学やライフキャリア論が専門で、それで採用されました。今の大学の学部構成は専門家の集まりです。
イメージしやすいのが、祭の屋台です。大学の教員は、みんな専門の屋台をだしてるのです。通常の屋台って、他の屋台のことはとやかく言えないですよね?それと同じで私たちも特に、何も言いません。お互いを認めているわけです。
伊藤:キャリア教育を現場でやってる中で、学生の就活やキャリアの考え方ってどのように変化してます?
田中教授:私は10年やってきて、色んな変化を感じてるけど、最近つくづく思うのは、本当に情報ファースト。全部手のひらで習得できると思っているところがありますね。スマフォはツールとしては最高なんだけど、教室の外に出たり、自分が18年20年生きてきた中で接したことのない人たち、エリア、組織に学生のうちにどれだけ接するかが大切だと思う。生きた情報を自ら動いて取りに行く。その過程で自分の感性を磨いていくのです。
一歩踏み出した人が成長につながります。だけど、なかなか一歩踏み出せない。手のひらが充実してしまった分、外に出ることが減ってきています。だからその一歩を踏み出せない学生に、どうしたら一歩踏み出せるのかを考えるのが、キャリア教育者として大切なんです。
伊藤:一歩を踏み出す踏み出さないは、やっぱり昔の方が踏み出す人が多かったですか?
田中教授:一概には言い切れないですけど、その傾向はありますね。情報を自分で取りに行こうという学生が多かったです。今は、ありとあらゆる情報が充実しているので、一歩を踏み出す前に、情報で疑似体験をして、何かを得たと感じるケースが増えているのだと思います。情報で学びながら、さらに、感性を磨く。感性を磨くことを怠るな、というのはずっと学生に伝えています。
伊藤:トライの数が少なくなってるからこそ、失敗とか負の数が少なくてずっと問題になってる早期退職とかがあるのかなと思うのですが、何か繋がりはありますか?
田中教授:失敗の経験は大切ですね。負荷がかかったときに、ぽきっと折れない、レジリエンス(耐性力)を備えておく。就職して、ミスマッチが起きて、本当はそこでグッと潜りながら耐えて、成長を待つことも必要なんだけど、すぐに転職してしまうことも増えているようです。
だったらこのレジリエンスはどこで養うかをずっと課題に感じてて。そのトレーニングの場として大学を活かすことができると思うのです。小中高の知識重視型の教育で染みついた考え方を4年間でどれだけ自ら壊せるかに鍵があります。大学を出れば、覚えた知識が役に立たないことを何度も経験していきます。その都度、学び成長する。自ら変化する学びの所作を身につけておくようにするのです。
伊藤:高度成長期は、真面目にコツコツ勤勉な能力が必要だったと思うんですよね、その頃にも、問題を解決する力は必要だったけど、いまは物があふれてるからこそ、カスタマイズできる力が必要だと思っていて。この人には何が必要なんだっけ、何を求めているんだっけといった問題を発見する力が必要。でも与えられたら問題を解けるけど、自分からは見つけられない。自分で動けないというのもそこに関わってくるのかなと思いました。
田中教授:コミュニケーションで大切なことは、相手が何を考え、求めているかを察することです。自分のことを押し付けることは、求められていません。相手は何を知りたくて、何を届ければ一番伝わるのかを考え抜きます。社会ってそういう風にできてるはずなんだけど、大学教育でも感じるのは、その伝える力が弱いですね。逆に、そこは、伸びしろがあります。例えば、ESでもインターンしてました、その中でリーダーをやりました、表彰されました、で以上だと、その先は?ってなりますよね。自己の経験を相手に伝わるように、もっと言えば、相手に「ささる」ように的確に言語化していく力が必要です。
伊藤:そのことに関して僕が思うのは、何事も本質は置換できるって思っていて。部活や恋愛では、できてるんですよね。この子と付き合うにはどうすれば良いかとか、絶対相手のことを考えるのに、なんでそれが就職活動で、その先でできないのかって、やっぱり点で終わっちゃってるからだと思うんですよね。置換して他に結び付けるには何が必要なんですかね?
田中教授:私は変化に対応するストレッチ力だと考えています。負荷をかけられたときに、思考を繰り返しながら、突破口を見つけ出す。そこでのPDCAを回しながら、成長していく。苦手なことがあった時に、やめようとなってしまうけど、まずは、向き合ってみる。大学・教育・インターンとその経験のフィードバックが好循環です。大学での学びを、社会で求められる学びに接合していく機会を増やしていくのです。
だから私は「学生のうちから社会人として行動しよう。」って伝えています。社会で生きるというのは、相手のことを思って行動するでもあるわけで。大学生のうちから、友達、サークル、ゼミなどでの関わりを大切にしながらも、井の中の蛙にならないように心がける。自分が知らない社会を経験するための一歩を踏み出していきましょう。